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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)468号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

検事の上告趣旨及び被告人等辯護人藤井五一郎、齋藤喜一、渡辺修二、池田克の各答辯は、それぞれ末綴上告趣意書並びに各答辯書記載の通りである。

検事の上告論旨第一點について。

連續した數個の行為が一罪として處斷されるがためには、これらの行為が同一罪質のものでなければならないことは連續犯の性質上當然であるが、今本件の食糧管理法違反の行為と国家総動員法違反の行為が連續犯となるか否かについて考えてみるに、食糧管理法の立法趣旨は、その第一條に明規されている通り、米麥その他の主要食糧の確保を中心として国民經濟の安定を圖るため、これら主要食糧を管理し、その需要及び價格を調整し、その配給を統制せんとするにあることが明瞭である。然るに国家総動員法第十九條(本件は本條に基く價格等統制令違反の事犯であるが、本條は右事犯後昭和二十年十二月二十日法律第四四號により改正せられた)の法意は、その規定及びこれに基き昭和十四年勅令第七〇三號を以て制定せられた價格等統制令によっても明かな通り、戦時に際し国家総動員上の必要に基き、諸物價その他の財産的給付に關し、所要の統制を行い以て一連の物價政策の遂行に資せんとするにある(右法律第四四號によって、終戦後の事態に對處し国民生活の維持及び安定を圖るため特に必要あるとき右の如き統制を行ふ趣旨に改められた)。即ち食糧管理法は主要食糧の確保を主目的として需給の圓滑、價格の公正を圖らんとするに對し、国家総動員法第十九條(これに基く價格等統制令)は、国家総動員上の特殊の必要に基き諸物價を統制せんことを主眼とするものであって、二者その立法の目的と適用範圍を異にするは勿論、價格に關する規定についても各その性格を異にする。故にこれら二法令に違反する行為は、その罪質を同じくするものということはできない。從って本件の食糧管理法違反の行為と国家総動員法違反の行為は、價格超過行為なる點において類似はしているものの、二者その罪質を異にするから、たとえ連續して為されたとしても、連續犯となり得ず、併合罪の關係に立つものと認めるの外はない。所論は要するに、右の異った罪質の各行為が連續犯となるとの前提に立って事を論ずるものであるが、既にこれを併合罪と認めねばならぬ以上、そのうち大赦令によって赦免せらるべき国家総動員法違反の行為を免訴とするのは當然であるから原判決には所論のような理由不備又は擬律錯誤の違法はない。論旨は理由がない。

同第二點について。

しかし、起訴状の記載自體に徴し、本件小麥粉の超過販賣行為と白鹽等の超過販賣行為はいずれも各別に代價を定めた別個獨立のものであることは明瞭であって、所論のようにこれを包括的な一個の行為とし、數罪倶発の關係に立つものと認めることはできない(論旨の指摘する原審第二回公判調書及び上申書等を仔細に検討してみても右の結論を左右するに足る反證はない)。しかも公訴繋屬中の事件に對し大赦があったときは、裁判所は單に免訴の判決をすべく、公訴事実の存否又は犯罪の成否等について実體上の審判を行うべきでないことは當裁判所の判例とするところであるから(昭和二十二年(れ)第七三號同二十三年五月二十六日大法廷判決)、大赦令によって赦免せらるべき本件白鹽等の超過販賣行為が所論の如く他の小麥粉の超過販賣行為と共に包括的な一行為を以て為されたか否か等事案の実體に亘る事項はこれを起訴状の記載自體によって決するの外なく、実體的な審理によって認定すべき限りではない。故にこの點に關し、前記の二行為が數罪倶発の關係に立つものと主張し、原判決の審理不盡を攻撃する所論は當らない。なお、本件公訴事実中白鹽等の超過販賣行為が前記の如く別個獨立のものとして大赦令の適用を受くべきものである以上、これに對し免訴の判決を為すべきは當然であって、原判決もまたその判文より推し、このような趣旨において為されたものと認められる。しかも右の行為は他の小麥粉の超過販賣行為と連續犯の關係に立つものとして起訴されたものと認むべきであるから、主文において免訴の言渡を為さなかった原判決は正當である。從って原判決には所論のような理由不備又は擬律錯誤の違法もなく論旨は理由がない。

仍って刑事訴訟法第四百四十六條を適用して主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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